光学測定用冷凍機式クライオスタット
MCCHeC-4K

光学測定用冷凍機式クライオスタット MCCHeC-4K
 
本製品は、GM型冷凍機を採用したクローズドサイクル式ヘリウムクライオスタットです。封入ヘリウムガスをコンプレッサーにより閉サイクルで循環させることで、液体ヘリウムなどの寒剤を使用せず、約2〜3時間で4K以下の極低温を実現します。合成石英窓を備えた真空シュラウドおよび輻射シールドにより、透過測定やフォトルミネッセンス(PL)測定などの光学実験に対応可能です。試料の角度およびXYZ方向の位置調整機構付き支持スタンドを標準装備し、柔軟な光学アライメントが行えます。温度コントローラーにより4K〜室温の範囲で安定した温度制御が可能です。また、真空空間内の試料は室温条件下で真空開放し、容易に交換できる分離型テイル構造を採用しています。空冷式コンプレッサーはAC100V電源に対応し、特別な設置工事を必要としないため、利便性に優れた光学測定向けクライオスタットです。

■仕様

最低到達温度 4K以下(熱交換器部にて)
冷却方式 冷凍機(無冷媒)
冷却所要時間 約150分
温度可変範囲 4K〜300K(熱交換器部にて)
温度安定度 ±0.1K
サンプル環境 真空
光学窓 真空シュラウド(合成石英窓4面)
輻射シールド ・270度〜90度間:高さ10mm × 180°幅スリット
・180度方向:φ10mm 開口径
コンプレッサー 空冷、室内設置型
設置環境温度 4℃〜38℃
供給電源 単相 AC100V(50/60Hz)
消費電力 最大1.5kW(冷却時)
必要電気容量 2.5kVA

※本仕様および外観は改善のため予告無く変更することがあります。

■クライオスタットの概要と光学測定への応用

クライオスタットは、試料を極低温に冷却し、その状態を保持したまま光学測定や物性評価を行うための装置です。本製品は、液体寒剤を使用しないクローズドサイクル方式を採用し、冷凍機により封入ヘリウムガスを循環させることで、約150分で4K以下の低温を実現します。真空チャンバーと輻射シールドによって熱流入を抑え、温度センサーおよびヒーターにより±0.1Kの高精度な温度制御が可能です。

光学測定用途においては、多面に合成石英製の光学窓を備え、レーザ入射、発光観測、透過・反射測定など、多様な測定系に柔軟に対応します。以下に代表的な応用例を示します。
● フォトルミネッセンス(PL)測定:
材料中の励起子や欠陥準位、バンドギャップ特性を精密に評価するためには、熱励起の影響を抑えた低温環境が不可欠です。4K近傍での測定により、発光スペクトルの高分解能化と微細構造の可視化が可能となり、半導体・量子ドット・2次元材料などの品質評価に有効です。
● エレクトロルミネッセンス(EL)測定:
電流注入による発光素子(LED、LDなど)の評価においては、低温下での再結合過程の明確化や非放射損失の抑制効果が重要です。発光効率やスペクトル純度の温度依存性を確認することで、デバイス性能の限界評価が可能になります。
● 光受光素子の特性評価:
フォトダイオードや赤外線センサ等の光検出器は、低温環境下で暗電流が大幅に低下し、真の感度・ノイズ特性を正確に評価できます。量子効率、応答速度、温度依存性の解析を通じて、高性能検出器の設計や宇宙観測・量子通信などの先端分野への応用が促進されます。
本製品は、これらの低温光学測定を高安定・高再現性で実現する信頼性の高い冷却プラットフォームとして、材料開発、基礎研究、製品評価など多様な現場で活用されています。

■内部量子効率(IQE)とは

内部量子効率(Internal Quantum Efficiency, IQE)とは、半導体中で生成されたキャリア(電子・正孔)のうち、 放射再結合(光として放出)した割合を示す指標です。

定義式:
IQE = 放射再結合したキャリア数 / 全再結合キャリア数

IQEは材料や構造における非放射再結合の影響を評価する上で重要な指標です。

■低温PL測定による相対的内部量子効率(IQE)の評価方法

この方法では、低温(通常10 K前後)でのPL強度を放射再結合による最大発光とみなし、 室温(300 K)でのPL強度と比較することで、相対的な内部量子効率(IQE)を算出します。

前提条件:
・低温では非放射再結合が抑制され、放射再結合が支配的である。
・したがって、低温でのPL強度は理想的な発光強度(最大値)とみなせる。
・室温では非放射再結合が増加し、PL強度が低下する。

相対IQEの近似計算式:
IQE300K = I300K / I10K

ここで、
I300K:室温でのPL積分強度
I10K:低温でのPL積分強度(最大発光)

この方法で得られるIQEは相対値であり、絶対値ではありませんが、 温度による非放射再結合の影響を評価する上で非常に有効です。

■低温PL測定による内部量子効率(IQE)の算出ステップ

  1. PLスペクトルの温度依存測定
    クライオスタットを用いて試料を冷却し、10 K(またはそれ以下)から室温(300 K)まで複数の温度でフォトルミネッセンス(PL)スペクトルを測定します。
  2. PLスペクトルの積分強度を算出
    各温度におけるPLスペクトルを波長ごとに積分して、PLの総強度(積分強度)を求めます。
    I(T) = ∫ PL(λ, T) dλ
  3. 相対IQEの計算
    室温(300 K)における積分PL強度 I300K と、低温(10 K)における強度 I10K の比から、相対的なIQEを計算します。

    計算式:
    IQE300K = I300K / I10K

    ここで、
    I300K:室温でのPL積分強度
    I10K:低温でのPL積分強度(最大発光)

    この比は、温度による非放射再結合の影響を示す指標となります。なお、この手法で求まるIQEは絶対値ではなく、あくまで相対評価となります。
  4. 非放射再結合の評価(オプション)
    PL強度の温度依存性から非放射再結合の活性化エネルギーを抽出するには、Arrhenius式に基づく解析を行います。
    I(T) = I0 / (1 + C × exp(-Ea / kT))
    ここで、
    Ea:非放射過程の活性化エネルギー
    k:ボルツマン定数

■外部量子効率(EQE)とは

外部量子効率(External Quantum Efficiency, EQE)とは、半導体デバイス(例:LED、太陽電池)から 外部に放出された光子の数と、注入または生成されたキャリア(電子)の数の比率を示す指標です。

定義式:
EQE = 外部に放出された光子数 / 注入された電子数

EQEはデバイスとしての実際の発光効率を表し、測定には積分球などを用いた絶対PL測定や電気駆動下での測定が使われます。

■積分球による外部量子効率(EQE)の測定方法(2π測定)

外部量子効率(EQE)は、積分球を用いてデバイスから放射される光(分光放射束)を測定し、 注入された電子数と比較することで算出できます。ここでは、積分球が測定する「2π方向(前方半球)」の放射束を用いた手法を説明します。

  1. 積分球による分光放射束の測定
    積分球を用いて、デバイスが放射する光の分光放射束 Φλ [W/nm] を測定します。 測定された波長ごとの放射束を元に、放出された光子数を算出します。

    光子数の計算式:
    Nphoton = ∫ (Φλ × λ) / (h × c) dλ
    ここで、
    λ:波長 [m]
    h:プランク定数
    c:光速
  2. 全方向への補正(4π換算)
    積分球は前方半球(2π立体角)の光のみを測定します。発光が等方的(ランバート放射)であると仮定すると、 全空間への放射光子数は測定値の2倍と近似できます。

    Ntotal ≈ 2 × Nphoton
  3. 注入された電子数の算出
    デバイスに流した電流 I [A] から、単位時間あたりの電子数を求めます。

    Nelectron = I / q
    ここで、q = 1.602 × 10-19 C(電子の電荷)
  4. 外部量子効率(EQE)の算出
    全方向に放出された光子数と注入電子数の比から、EQEを計算します。

    EQE = (2 × Nphoton) / Nelectron
    または、
    EQE = (2 × Nphoton × q) / I

    これにより、積分球測定を通じてデバイスの実際の外部発光効率を評価できます。

■外部量子効率(EQE)と内部量子効率(IQE)の関係

EQEとIQEの間には、以下のような関係式があります:

EQE = IQE × ηout

ここで、
ηout は光取り出し効率(Light Extraction Efficiency)であり、
発光層内で生成された光子のうち、実際にデバイス外部へ抜け出せる割合を示します。

取り出し効率は、屈折率差による全反射、デバイス構造(反射層やパターン加工)、光吸収などにより影響を受けます。

IQEは材料内部での発光効率、EQEはそれを含めた「実際に外に出る光」の効率であり、 IQEの最大値は100%ですが、EQEはそれ以下になるのが通常です。