フォトルミネッセンス(Photoluminescence, PL)の基本原理

フォトルミネッセンス(PL)は、物質に高エネルギーの光(励起光)を照射することで、価電子帯に存在していた電子が励起され、伝導帯などの高エネルギー準位に遷移した後、再び基底準位へ戻る過程において放出される光(フォトン)を検出・解析する光学的手法です。この現象は、主に半導体材料や蛍光体などにおける電子状態の評価や材料品質の診断に広く利用されます。

図に示すように、基底準位(多くの場合は価電子帯上端)にある電子は、外部から照射される励起光のエネルギーを吸収し、より高いエネルギー準位(典型的には伝導帯)に励起されます。これにより、電子と正孔の対が形成されます。

基本原理の図

しかしながら、励起された電子は即座に再結合して放射遷移を起こすとは限りません。多くの場合、再結合に至る前に、以下に示すような緩和機構を経由することがあります。

  • 非放射緩和(Non-radiative Relaxation): 励起された電子が格子振動(フォノン)との相互作用を通じて熱エネルギーとしてエネルギーを失う過程です。この過程では光子は放出されません。
  • 準位捕獲(Trapping by Defect or Impurity Levels): 結晶格子中に存在する欠陥あるいは不純物によって形成された中間準位に一時的に電子が捕獲され、そこから再び基底準位へと戻る際に、バンドギャップよりも低エネルギーの光が放出されることがあります。

このような過程により、PL測定で観測される発光スペクトルは、必ずしも入射光子のエネルギーとバンドギャップのエネルギー差をそのまま反映するわけではなく、物質内部における多様な緩和経路の影響を受けることになります。

PLは、試料に非接触・非破壊で適用できる高感度な評価手法であり、バンド構造やエネルギー準位の解析に加え、結晶性、欠陥密度、不純物分布などの情報を包括的に取得可能です。特に半導体デバイスの材料開発や品質管理、量子ドット・低次元構造の評価において重要な技術として位置づけられています。